タイヤが物語る労苦
東京の足立区扇には、身体障害者用のオーダーメイド自転車を製造する町工場(堀田製作所:堀田健一代表)がある。過去、28年間に1700台以上の身体障害者用自転車を製造し、その功績が評価され、吉川英治文化賞や厚生労働省から技術五輪転の感謝状が贈られている。テレビ番組や新聞記事で数多く紹介され、町の自慢の逸品である。障害の度合いや個性に応じて製造するので、すべてが世界唯一の自転車である。
実は、しょうけい館にも世界でたった1台しかない障害者用の自転車(写真)が展示されている。ローマ字で「ZYUNESU(ジュネス)」と名付けられた自転車は、片足踏みペダル式で、昭和13年に戦地の中国(桃香橋)で受傷し、右足大腿部切断の手術を受けた中島外二氏(92歳で他界)愛用のものである。
義足の右足では自転車をこぐことができないため、左足だけでこぐことができるように、空回りがしない工夫がなされている。中島氏は生前「最初は混みあう道路での走行に恐怖を感じましたが、次第に慣れました。坂道を避けたので3倍も遠回りをしました」と話している、何よりも、磨り減った自転車のタイヤがその労苦を無言で語っている。
(話題創り研究所所長/小暮進)