●軍靴の種類
陸軍では、編上靴(あみあげぐつ/へんじょうか)、営内靴(えいないぐつ/えいないか)、上靴(うわぐつ/じょうか)の3種類が支給されました。正式名称は訓読みですが、兵士たちの間では音読みで親しまれていました。
・編上靴
訓練、行軍、戦闘など、軍隊生活の中で日常的に履く靴です。革製で靴底には鋲が打ってあり、丈夫な仕様となっています。

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編上靴(寄贈資料より) |
軍靴の靴底(寄贈資料より) |
・営内靴
紐がない、兵営内で用いる略式の軍靴です。
・上靴
兵舎の中だけで用いるスリッパ状の革靴です。
※現在の学校の校舎内で使われている上靴(上履き)と同じような使い方です。
・長靴(ながぐつ/ちょうか)
馬に乗る騎兵、砲兵などには長靴が支給されました。

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長靴(寄贈資料より) |
長靴の靴底 |
脚絆(ゲートル)
・脚絆(ゲートル)
脛の保護、足のむくみ防止、ズボンの裾が絡まないようにするために巻くものです。
緑色の布のものは“巻脚絆”、革製のものは“革脚絆”といいます。編上靴では巻脚絆を、長靴では皮脚絆を用いました。
“巻絆”と呼ぶ人もいました。
●行軍での労苦と病気
行軍中、兵士の体力を消耗する原因には、季節、天候、道路事情、地形、運搬物の重量、軍靴など様々なものがありました。行軍中にかかりやすい病気や症状を「行軍病」と呼んでいました。
・暍病
行軍に最も関係の深い病気で、現在の熱中症に相当します。軍隊では日射病と熱射病を総称して“暍病”と呼んでいました。中国方面では、広大な地域を1日に10キロ、20キロと行軍することがあり、暑さで倒れてしまう兵士も少なくありませんでした。
・靴傷(靴ずれ)
行軍中に最も多発する傷で、足の形に合わない革の軍靴を長時間履き続けなければならないことや、靴下の不衛生が原因とされています。歩兵の行軍能率を下げやすく、戦闘の勝敗にも大きく関わってきました。傷がひどい場合は、病院に入院しなければならないほどでした。
・凍傷(とうしょう)
厳寒地域や冬山などで発生しやすく、低体温症を伴うことがあります。処置が遅れると、組織が腐敗してしまいます。
・筋断裂
肉離れ。筋肉の疲労が原因で、症状がひどくなると、筋肉組織の障害、壊死が起こります。
・偏平足
重い荷物などを長時間背負っていることで足や骨に負荷がかかり、足裏が平らになってしまう症状です。腰痛、関節痛等の原因になります。
軍靴(寄贈資料より)
このほかにも、腱鞘炎、関節捻挫、筋ヘルニア、汗疱状白癬(水虫)などがありました。
行軍での休止時間には靴を脱いで足を洗い、休めることが重要とされていましたが、靴を脱ぐこともできない程疲労していた兵士が多かったようです。
また、いつ攻撃されるか分からない状況の中では、軍靴は常に履いたままということが多かったようです。雨天時は濡れた靴の着脱が容易でなかったことも、想像に難くありません。
このほか、軍靴にまつわる体験記も紹介しています。
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