2018年5月12日(日)~2018年7月16日(月)まで、1階にてミニ展示を開催しています。今回の展示資料は、戦傷病者(両眼失明)の原田末一さんによる掛軸2幅です。
原田末一さんと書道
この2幅の掛け軸は、一見してよくある書道の作品に思われるかもしれません。しかし驚くべきことに、これらの書は全盲の方、それも80歳という高齢になってから書道を始めた方によって書かれたものです。
昭和12年、41歳で日中戦争に出征した原田さんは、中国に上陸した直後に銃撃を受け、銃弾が両眼を貫通しました。応急処置を受けた後に日本に戻され、病院で治療を受けましたが、両眼ともに失明となってしまいました。ショックから一時は自暴自棄となり、自殺を図る事さえありましたが、周囲の人々の励ましもあって、徐々に立ち直っていきます。退院(除隊)後は出征前に務めていた教職に復帰し、戦後は社会福祉活動に尽力しました。
書道は、80歳の時に運動不足を補うことを理由に軽い気持ちで始めたそうですが、そこには自身が盲目だからこそ言葉に言い表せない思いもありました。
著書『杖』では次のように述べています。
「目の見えぬ者が字を習うと言うことは、おかしな事。だが、見えないから習う気になったのだ。目が見えていたら、八十歳でこんなことは始めないであろう。」
全く目の見えない原田さんが書道を習うには工夫が必要で、健常者とはまた違った苦労がありました。その勉強は、字の形に穴をあけた型紙を用意し、これをなぞって筆の運びを覚えるというものです。この練習は、毎日欠かさずに行いました。そして、実際に墨をつけて書く時には、一画目の始点を書道の先生に定めてもらい、自分が覚えた書のイメージの通りに筆を走らせました。
原田さんの気概と、書道の先生からの的確な指導、そして毎日練習を続けた努力の結果として、その書は展覧会で表彰されるまでに至りました。その書には「戦盲」や「盲」という言葉を記して、自分の境遇を作品に映しています。
原田さんは、書道を始めて以来その努力を重ね、その生涯を閉じる103歳まで貫き通しました。今回の展示資料も93歳と101歳という高齢の時に書かれたものです。老いを感じさせず、やる気に満ちあふれた書を、是非ご覧下さい。
展示資料
【ミニ展示関連図書】
展示に併せて、原田さんの著書も閲覧できるようにしてあります。失明傷痍軍人としての自身の体験をまとめた戦時中のベストセラー『戰盲記』のほか、随筆集なども配架しております。是非ご覧ください。
『戰盲記』原田末一著 昭和18(1943)年
『道一筋』原田末一著 昭和36(1961)年
『聲』原田末一著 昭和47(1972)年
『杖』原田末一著 昭和58(1983)年